2014年10月4日土曜日

有名企業の課題図書 ~あの会社の社員は何を読まされているのか~ 後編

丸善日本橋店の試み

有名企業の課題図書

この記事は丸善日本橋店で行われた『有名企業の課題図書』と称したフェアで紹介されていた書籍を紹介する記事の3つ目である。

まず初めに前編を読むことをおすすめする。
前編はこちら
中編はこちら

紹介された業種

扱われていた業種は以下の通りである。
  1. 製造業
  2. サービス業界
  3. 電機業界
  4. 情報通信業界
  5. 金融業界
  6. 不動産業界
  7. 食品業界
  8. 小売業
  9. 流通業界
  10. 商社
  11. 製薬業界
  12. 医療機器業界
  13. 教育機関
  14. コンサルティング
  15. 各種業界
「○○業」と「○○業界」とで表記が分かれていることに意味があるのかどうか不明だが、丸善で紹介されていた通りの名前に従うものとする。


後編(この記事)では14.コンサルティングと15.各種業界を紹介する。


14.コンサルティング

コンサルティング業界の課題図書

仮説思考

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル



BCG戦略コンセプト

価格優位戦略

学習する組織



選ばれるプロフェッショナル

リーダーを育てる会社・つぶす会社

リーダーになる



情報を読む技術

究極の鍛錬

取締役物語



忙しいビジネスマンでも続けられる毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術


感想

『仮説思考』は、前編で紹介した『見える化』と同様、タイトルが今やビジネス用語として定着した名著である。著者の内田和成氏は時々ニュース番組などに出演しており、見たことのある人は多いかもしれない。

何らかの問題を手早く解決するには、仮説すなわち一時的な答えを設定した上で、その仮説を検証するというプロセスが最も早い。一見当たり前のように思えるが、有効に実践している人は少ないと思われる。

『仮説思考』では「良い仮説」を立てるための方法論と、それを繰り返すことで得られる先見性に徹底してフォーカスしている。実例が多く載っているので、頭の良い人は概論部分だけ読めば理解できるかもしれない。

コンサルタントを始めとした課題解決に関わる社会人はもちろん、学生にも多く読まれているようだ。私も学生時代に周囲に薦められて読んだものだった。

続編として扱われる『論点思考』は、そもそも問題は何なのか、正しい問いの設定について扱っており、併せて読むことをおすすめする。ちなみに私には『論点思考』の方が面白いと感じられた。


『ロジカル・シンキング』は通称「銀色本」「灰色本」などと呼ばれ、論理的思考法に関する書籍としては真っ先に名前の上がるベストセラーである。ビジネス書を読むなら最初に薦められる本と言っても過言ではないだろう。

著者2人が戦略コンサルティングファーム(マッキンゼー・アンド・カンパニー)勤務で得た、あるいは創りだした知見をシンプルかつコンパクトにまとめてあり、ロジカル・シンキングの標準とも言える一冊である。

ただし具体例が少なく、模範解答も無いので、なかなか難しい本でもある。私は学生の時に読んでもよくわからず、社会人になって改めて読んでみて、初めて意味や価値を理解した内容が多かった。


15.各種業界

各種業界の課題図書

※書籍リスト紛失のため省略。発見次第更新予定。

感想

(省略)

終わりに

企業にとって課題図書とは

企業が社員に課題図書を設定するとき、そこにはどんな意味があるのだろうか。

資格取得などを推奨あるいは義務付けている場合は別だが、本を読ませるというのは客観的な尺度で社員の理解度や成長を確認するのは難しいトレーニングである。それでも多くの会社が課題図書を設定する。

例えば社員同士の意思疎通に用いる共通言語の獲得を期待されているのかもしれないし、そもそも課題図書に対してどのように接するかという態度や真面目さを試されているのかもしれない。

もしくは会社が社員に対して、課題図書に書かれている内容に同意するような社員を育成していきたい、課題図書に書かれた能力を身につけた社員になってほしいというアピールをすることが目的かもしれない。

上記で紹介した書籍や、あるいは自社の課題図書を「自分が人事部や経営者だとして、この本を社員に読ませる時どんな効果を期待するだろうか」という視点で読んでみると、単に読むだけより得られるものは多くなるだろう。

(完)

2014年9月6日土曜日

有名企業の課題図書 ~あの会社の社員は何を読まされているのか~ 中編

丸善日本橋店の試み

有名企業の課題図書

この記事は丸善日本橋店で行われた『有名企業の課題図書』と称したフェアで紹介されていた書籍を紹介する記事の2つ目である。

まず初めに前編を読むことをおすすめする。前編はこちら

紹介された業種

扱われていた業種は以下の通りである。
  1. 製造業
  2. サービス業界
  3. 電機業界
  4. 情報通信業界
  5. 金融業界
  6. 不動産業界
  7. 食品業界
  8. 小売業
  9. 流通業界
  10. 商社
  11. 製薬業界
  12. 医療機器業界
  13. 教育機関
  14. コンサルティング
  15. 各種業界
「○○業」と「○○業界」とで表記が分かれていることに意味があるのかどうか不明だが、丸善で紹介されていた通りの名前に従うものとする。


中編(この記事)では5.金融業界から13.教育機関までを紹介する。


5.金融業界

金融業界の課題図書

金融マンのための実践ファイナンス講座

金融マンのための実践デリバティブ講座

金融マンのための不動産ファイナンス講座

銀行・証券・保険リテール営業で今すぐ使える税金の本


金融英語入門

あたりまえだけどなかなかできない仕事のルール

ミス激減・業績UP!チームを思い通りに動かせるダンドリ上司術

7つの危険な兆候


トヨタの片付け

2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート

日本一を目指す物流会社のすごい社員勉強会

ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則


感想

銀行か証券会社か、はたまた保険会社か判断しかねるが、実務的なタイトルが並んでいる。新入社員よりは少し経験があり、部下もいるような年次の社員向けの書籍であることを思わせる。

『7つの危険な兆候』は企業における大きな舵取りの失敗に対し、経営者と組織がどう向き合うべきかを提示している。戦略が上手く機能しなかった場合の対策にシビアな視点でフォーカスしている名著である。

前編の4.情報通信業界で『ビジョナリー・カンパニー』を紹介したが、続編である『ビジョナリー・カンパニー2』も同じ理由でおすすめできない。先に『なぜビジネス書は間違うのか』を読むべきである。


6.不動産業界

不動産業界の課題図書

チームで最高の結果を出すマネジャーの習慣

マネジメント・テキスト 経営戦略入門

営業マンは「お願い」するな!

「時間がない」から、なんでもできる!

電話はなぜつながるのか


感想

硬派な経営戦略の教科書とライトな自己啓発本の組み合わせで、いまいち対象が想像できない。『電話はなぜつながるのか』が課題図書であるというのは、不動産業では固定電話の仕組みについて知っておく必要があるということだろうか。


7.食品業界

食品業界の課題図書

洋菓子の経営学―「神戸スウィーツ」に学ぶ地場産業育成の戦略

ディープ・チェンジ 組織変革のための自己変革

誰でもアッという間に不思議なくらい商品が売れる販売員の法則

中内功のかばん持ち


感想

販売員に関する本や、中内功のことを取り上げていることを考えると、食品を製造するだけでなく流通まで自社で行っている会社だろうか。個人的にはあまり惹かれる本がなかった。

中内功とはダイエーの創業者で、日本の流通革命と価格破壊に大きく貢献した人物である。戦後から消費者に安く商品を届けることを信念にし続け、松下幸之助とは価格に対する考え方の違いで対立し続けたという。ダイエーの経営から引退する際の「人生に楽しいことは何もなかった」という言葉が有名である。


8.小売業

小売業の課題図書

戦略読書日記 〈本質を抉りだす思考のセンス〉

安売りしない会社はどこで努力しているのか?

社長のノート3 利益を出せる人 出せない人

「先延ばし」にしない技術

手紙を極める


感想

手紙の書き方であるとか、安売りしない姿勢であるとか、高級百貨店が読ませていそうなセレクトである。

『戦略読書日記』は前編の2.サービス業で紹介した『ストーリーとしての経営戦略』と同じ著者が書いている。
内容としては企業戦略本(一部直接関係ないものもある)への書評であり、紹介されている本は『ストーリーとしての経営戦略』と関連しているため、単独で読むよりは、併せて読むと理解が深まるかもしれない。


9.流通業界

流通業界の課題図書

無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい

コクヨ式 机まわりの「整え方」 社内で実践している「ひらめきを生む」3つのコツ


感想

いずれも流通業ではない会社に関する本である。

株式会社良品計画は2010年以降、利益率を伸ばしながら売上を34%増加させており、またコクヨ株式会社も同じ時期に利益率を劇的に改善しつつ売上を増加させている。

良品計画もコクヨも、現場の生産性改善に強くフォーカスする会社だと言われており、特に良品計画は現場の声を重視したマニュアルを売上増加の要因に挙げるほどである。

このような背景から、現場のオペレーションが重要な流通業の会社が、上の2冊に参考にすべき点があると考えるのは自然なことかもしれない。


10.商社

商社の課題図書

営業マンは「商品」を売るな!

ロジカル・プレゼンテーション


感想

営業にフォーカスした書籍だろうか。商社では担当する商品によって習得すべき知識がそれぞれ異なるはずであるから、共通化できる部分としてこの2冊が挙げられているのかもしれない。


11.製薬業界

製薬業界の課題図書

論理的な考え方が面白いほど身につく本

決算書の読み方が面白いほどわかる本


感想

一般的なハウツー本が2冊で、あまり読書による自主学習に期待していないことが伺える。


12.医療機器業界

医療機器業界の課題図書

給料が上がる人、上がらない人のたった一つの違い


感想

「こういう社員の給与は上げる、そうでなければ上げない」という姿勢を提示する極めてストレートな課題図書である。ブラックボックス化しがちな人事評価制度を、参考とは言え会社側が明らかにしているのは素晴らしいことではないか。


13.教育機関

教育機関の課題図書

「管理職」のための七つの道具術

ひと目でわかる英文契約書

グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略

プラットフォームビジネス最前線

オープン&クローズ戦略


感想

具体的な企業戦略の書籍が並び、経営や企画に関わる社員向けのセレクトであろうことがわかる。

『プラットフォームビジネス最前線』は、成功したプラットフォームビジネスを纏めて紹介しており、具体的事例から概要を掴みたい人にはおすすめできる。ただ、事例から一般化された理論や方法論の記述はあまりないため、既にプラットフォームビジネスについて詳しい人にとっては、あまり意味がないかもしれない。



(後編に続く)

2014年9月5日金曜日

有名企業の課題図書 ~あの会社の社員は何を読まされているのか~ 前編

丸善日本橋店の試み

有名企業の課題図書

丸善の日本橋店2階で、『有名企業の課題図書』と称したフェアが開催されていた。業種ごとに課題図書としている書籍が並べられているだけの展示だが、他社の社員教育の一端に触れることができ、非常に興味深い。

このフェアは丸善日本橋店で2014年8月31日まで開催されていた。

調査方法は明らかではないし、社名は伏せてあるばかりか、業種の設定区分も想像する他ないが、何らかの実際の会社(丸善曰く「有名企業」)の課題図書であったことは事実だろう。

思わず書名をメモしてしまったので、公開したいと思う。興味を持った方は是非、(フェアは終わっているが)丸善日本橋店へ足を運んでみてほしい。

なお、書籍の数が多いため、3分割して投稿する予定である。

紹介された業種

扱われていた業種は以下の通りである。
  1. 製造業
  2. サービス業界
  3. 電機業界
  4. 情報通信業界
  5. 金融業界
  6. 不動産業界
  7. 食品業界
  8. 小売業
  9. 流通業界
  10. 商社
  11. 製薬業界
  12. 医療機器業界
  13. 教育機関
  14. コンサルティング
  15. 各種業界
「○○業」と「○○業界」とで表記が分かれていることに意味があるのかどうか不明だが、丸善で紹介されていた通りの名前に従うものとする。


前編(この記事)では1.製造業から4.情報通信業界までを紹介する。


1.製造業

製造業の課題図書

見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み

現場力を鍛える-「強い現場」をつくる7つの条件



2052 今後40年のグローバル予測

ディズニーの現場力

勝つ組織




最新版〈入門の入門〉経営のしくみ

成功と失敗の事例に学ぶ 戦略ケースの教科書

知識創造企業



誰でもすぐにできる 売上が上がるキャッチコピーの作り方

プロフェッショナル電話力 話し方・聞き方講座

凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク



感想

製造業と書くだけでは領域が広すぎる気がするが、「電機業界」「食品業界」が区別されているため、対象は素材や部品メーカーやプラントメーカーなどだろうか?

『見える化』は世に出てから10年が経とうというしているにも関わらず、未だにビジネスマン必携の書として名が挙がり続ける遠藤功の傑作である。
「見える化」という語は今や自然に使われる語になり、この書のことを意識せずに使われることも多くなってきた。この書の影響力が伺える。
課題図書に設定されるまでもなく、上司や先輩などに薦められて手にする人も多い本ではないか。『現場力を鍛える』『ねばちっこい経営』と併せて読むことをおすすめする。

課題図書の調査対象が何社あったのかは分からないが、いずれも新入社員向けの課題図書なのではないかと思われる。だが、それが正しいとすると、製造業の会社が新入社員に対して経営そのものに関する書籍を3冊も読ませるというのは少し意外である。
今やどんな会社でも社員に経営的視点を要求しているということだろうか。コンサルティング会社には様々な企業から「社内の選抜メンバー向けのマネジメントや戦略に関する講座」の依頼が舞い込んでくるが、この課題図書もそうした活動の一貫だということか。

『戦略ケースの教科書』は、新人コンサルタントの中でよく話題に上がる書籍である。所謂フレームワークに強引に結びつけている感は否めないが、戦略の変遷や数字の変化などを細かく調べてあり、課題と効果に対する目の付け所を教えてくれる。


2.サービス業

サービス業の課題図書

究極のセールスレター

究極のマーケティングプラン

ある広告人の告白

「売る」広告



アメーバ経営

ストーリーとしての競争戦略

イノベーションの本質

ロジカル・セリング



NLPのことがよくわかり使える本

さあ、才能に目覚めよう

目標を「達成する人」と「達成しない人」の習慣

新幹線 お掃除の天使たち



感想

これもまた「サービス業」では領域が広すぎて全く会社の想像が付かない。

広告関連の書籍が目立ち、またセールス系の書籍が複数あったり、カウンセリングに使われるNLP(神経言語プログラミング)の書籍もあったり、営業色の強いセレクトであることは疑いがない。

この中で読んだことがあるのは『ストーリーとしての競争戦略』のみだった。競合他社との戦い方に興味はあるが、戦略というものが何なのか全く分からないという人に薦められる、比較的ライトな読み物系の戦略本である。


3.電機業界

電機業界の課題図書

役員の法律知識がよくわかる!取締役になったら「初めに」読む本

中期経営計画の立て方・使い方

プロジェクトコスト見積もり入門



感想

見るからに管理職や役員になった人向けのセレクトである。残念ながら私は取締役ではないし、プロジェクトコストの見積もりは手伝ったことがある程度、中経の設定など関わったこともなく、何より上のいずれも読んでいないのでコメントは差し控える。


4.情報通信業界

情報通信業界の課題図書

PDCAが面白いほどできる本

一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」

残業ゼロ!仕事が3倍速くなるダンドリ仕事術

絶妙な「報・連・相」の技術



自分の小さな「箱」から脱出する方法

僕が電通を辞める日に絶対伝えたかった79の仕事の話

月曜日の朝からやる気になる働き方

社員を大切にする会社 ―― 5万人と歩んだ企業変革のストーリー



給与計算の事務がしっかりできる本

「情報管理」に強くなる法務戦略

電力と震災 東北「復興」電力物語

ビジョナリー・カンパニー



感想

仕事術、仕事との向き合い方などの本が並び、また比較的ライトなものが多いことから、新入社員向けのセレクトであることが伺える。

『電力と震災 東北「復興」電力物語』が若干浮いているように見えるが、通信業界といえばSoftBankやKDDIが電力市場に参入しているので、自社の新規事業に目を向けさせるための選択ではないかと推測される。

『ビジョナリー・カンパニー』は、おすすめできない。取り扱う内容が意図的に限定されている上、楽観的すぎる。もし気になるのであれば、まず『なぜビジネス書は間違うのか』を読むことを強く薦めたい。



(中編に続く)

2014年4月9日水曜日

【Excel Tips】 もう二度と使うな!VLOOKUP撲滅キャンペーン

我が憎しみのVLOOKUP

VLOOKUP関数の呪縛

下のような表(図1-1)が与えられている。連番、書籍のタイトル、ISBNコード、著者と訳者のリストである。B12に入力された数字(連番)に対応するタイトルをD12に表示するように関数を組み込みなさいと言われたら、どうすれば良いだろうか。
図1-1

このような場合に頻繁に用いられるのがVLOOKUP関数だ。下の例のように範囲をA2:B10、検索値B12セル、列番号に範囲の相対的な位置を設定して利用する(図1-2)。
図1-2
 [検索方法]は、検索対象が文字列の場合、原則FALSEにしておけば良い。

結果は下のようになる。
図1-3

範囲A2:B10の最も左の列(A列)から、検索値に一致するセルを検索し(A4セル)、該当の行の2列目(B列)の値を表示している(図1-3)。

自由無き関数はただ地に転がる石ころのごとく

しかし、VLOOKUP関数は、範囲の一番左の列しか検査できないため、使える状況は著しく限定されている。求めたい値を含む列の左側に検査の対象がある場合、VLOOKUP関数は使うことができない。

上と同じ表を用いて、今度はNo.ではなくISBNからタイトルを特定することを考える(図2-1)。VLOOKUP関数を用いて、B12セルに入力されたISBNに対応する書籍のタイトルをD12セルに表示したい。
図2-1

ISBNはC列、タイトルがB列だから、検査の対象の列が、範囲B2:C10の一番左の列ではない。そのためVLOOKUP関数はC列を検査の対象にできず、B列から値を探そうとするため、N/Aエラーが発生する(図2-2)。
図2-2

そもそも列番号に入力すべき値を指定することができない。例えば無理に左側を指定しようとマイナスの値などを入力しても(図2-3)、VLOOKUP関数が検査するのはあくまでB列であるから、エラーが返される。
図2-3

VLOOKUP関数を使う時は、列の並びに注意する必要がある。上の例では、ISBN列とタイトル列を入れ替えなければならない。簡単な表ならまだしも、複雑な関数を利用しているシートでは関連するセルを全て直さねばならず、非常に不便である。

VLOOKUPの上位互換

たったひとつの冴えたやりかた

下の例のように、INDEX関数とMATCH関数の組み合わせ(図3-1)こそが、VLOOKUP関数の有効な代替になる。そしてその利用の喚起こそが、この投稿の主目的である。
図3-1

これを利用した場合、元のデータを加工することなく、上述の目的は達成できる(図3-2)。
図3-2

以下ではINDEX関数とMATCH関数の、それぞれの挙動について確認した後、組み合わせた用法について詳細を解説し、その有用性を詳らかにしたい。

とある技術のINDEX

INDEX関数は、引数に指定した複数セルの塊(配列)の中で、左上隅を原点とした相対的な位置によってセルを特定し、その内容を返す関数である。

下の例では、配列A2:E10の中で、6行目・4列目のセルを探し、その内容を返すことになる(図4-1)。
図4-1

指定された配列A2:E10の中で6行目・4列目のセルの内容は“シュムペーター”であり、狙い通りの値が返されていることがわかる(図4-2)。
図4-2
以上がINDEX関数の最も基本的な機能である。INDEX関数を使う上では、これだけ知っておけばまず問題はない。

MATCH売りの少女

MATCH関数は特定の列を検査範囲に指定すると、検査値(セルでも文字列でも可)と一致する相対行数を返す。

下の例では、B列の2~10行を対象に、文字列“贈与論”が存在するセルの相対行数を返すことになる(図5-1)。
図5-2
[照合の種類]には、検査値が文字列である場合は0を指定しておけば良い。

“贈与論”が入力されているB6セルは、検査範囲B2:B10の中で、上から5番目のセルであるから、5が返される(図5-3)。
図5-3

以上がMATCH関数の最も基本的な機能である。この他にも、検査範囲を列ではなく行にできたり、検査値が数字の場合に最も近い数字を含むセルの位置を返したり、などの使い途があるが、ここでは説明しない。

ふたつならヤレルヤ

INDEX関数もMATCH関数も、単独では非常に地味な関数だが、この2つを組み合わせると、極めて使い勝手の良い関数に変貌する。

両者の挙動を踏まえた上で、冒頭の組み合わせた関数を再度見てみたい(図6-1)。まずMATCH関数が、B12セルに入力されている文字列を含むセルを、C列から探し、その行数を返す(この場合は6)。
図6-1

それを受けてINDEX関数が、配列B2:C10の中で、6行目・1列目のセルを特定し、その値である“租税国家の危機”が返される(図6-2)。B12セルに入力されたISBNに対応する書籍のタイトルを表示することに成功している。
図6-2

同じ表を使って、もう一例試してみたい。次は訳者(E列)から、対応するタイトル(B列)の値を求めることにする。

INDEX関数の引数として配列B2:E10を指定し、タイトルは最も左側の列にあるから、列番号には1を指定する。また、MATCH関数の引数には、訳者の含まれるE2:E10を検査範囲に指定し、検査値としてB12セルを指定しておく(図6-3)。
図6-3

MATCH関数が、文字列“日高 六郎”を含むセルの相対行数である4を返し、INDEX関数が配列の中で4行目・1列目の値である“自由からの逃走”を返し、望んだ結果になることがわかる(図6-4)。
図6-4

このように、VLOOKUP関数と違い、検索値と抽出したい行との関係は自由自在である。INDEX関数とMATCH関数を組み合わせた用法の有用性がおわかり頂けただろうか。

一見複雑に見えるが、順を追って理解すればVLOOKUP関数よりわかりやすく、2~3回も使ってみればセルに打ち込む時間も殆ど掛からなくなるはずだ。

MATCH一行 齟齬の元

INDEX関数とMATCH関数との組み合わせに限らず、複数の関数を組み合わせる際には、引数の範囲が噛み合っているかどうかについて、注意しておく必要がある。

MATCH関数が返す値も、INDEX関数の引数に設定するのも、その関数にとっての相対的な値であることを忘れてはならない。起こりがちな誤りは、MATCH関数とINDEX関数とで、異なる数の行を引数に設定してしまうことである。

下の例ではINDEX関数がB1:E10の10行を配列にしており、MATCH関数がE2:E10の9行を検査範囲にしている(図7-1)。そのため。例えばE5セルの相対行数が、INDEX関数にとっては5行目で、MATCH関数にとっては4行目ということになってしまう。
図7-1

MATCH関数は文字列“日高 六郎”が含まれるE5セルを見つけ、相対的な行数である4を返すため、INDEX関数は配列B1:E10の中から4行目・1列目、すなわちB4セルの値を返してしまい、正しい結果が得られない(図7-2)。
図7-2

上のようなズレを防ぐために、MATCH関数とINDEX関数の変数に、列そのものを指定してしまうと良い。下ではMATCH関数の検査範囲として、E列全てE:E)を指定している。また、INDEX関数の配列として、A~E列の全て(A:E)を指定している(図8-1)。
図7-3

これにより、2つの関数の相対行数が確実に一致するので、齟齬が生じることはない。
図7-4

一般的にExcelで上のような一覧を作る場合、新たに行が追加されることを想定してシートを作成するはずである。今回は説明のために作成したが、図1-1から図7-2までのように、ある列に別の項目が登場してしまうようなシートは望ましくない。

本来であれば図7-3や図7-4のように、1列には1項目のみ(著者の行には著者のみ)存在するように作成すべきである。そうすれば、後から行の追加や挿入があったとしても、上で作成した関数は そのまま使うことができるし、その他の保守性も高まる。

さらばVLOOKUP

ソビエトロシアでは関数が人を使う

以上のように、柔軟な上位互換が存在するにも関わらず、非常に多くの人がその存在を知らず、使いにくいVLOOKUP関数を使い続けている。

そして今日も世界のどこかで「VLOOKUP関数は便利だ」と後輩に教える人がいて、また別のどこかでVLOOKUP関数のために列の入れ替え処理をしている人がいる。

果ては「VLOOKUP関数が使いやすいようにファイルを作れ」などという考え方まで標榜される始末である。まさしく人間が道具に使われる典型例ではないか。

関数のために働くのはもうやめよう。

こんな関数はもう要らないんだ

上位互換であるINDEX&MATCH関数が、VLOOKUP関数に劣る点があるとすれば、知名度が低いことである。同僚がこの関数を見た時、あなたが何をやっているのかわからないという事態は起こりうる。

これは複数人で作業する上では問題になる可能性があるが、VLOOKUP関数が忘れ去られ、INDEX関数とMATCH関数の組み合わせが一般的になってしまえば、誰もこの関数の挙動を疑問に思うまい。

上で解説したINDEX関数とMATCH関数の組み合わせは、調べればいくらでも出てくる情報である。使い方を紹介しているWebページは、日本語のものだけでも無数にある。

それでも敢えて、改めて紹介するエントリを作成したのは、VLOOKUP関数ではなくINDEX関数+MATCH関数を使おうという意見を、強く訴えたかったがためである。それこそVLOOKUP撲滅キャンペーンの第一歩である。

この思想が広く世に受け入れられることを切に望む。

VLOOKUP関数を使うのはもうやめよう。