2015年6月27日土曜日

動作停止したHDDからデータを救え ~素人によるHDD修理~ 後篇

記録磁気への波紋疾走

タスクは購える縄の如し

前篇に続き、素人によるダメ元のHDD修理を実践することにした。この記録が、いつか誰かが同じことをする際に役に立てば幸いである。

まずは必要な物を購入する。

電機に関することで何かを始めるのなら、秋葉原で相談するのが最も早い。千石電商本店で相談したところ、快くアドバイスしていただいた。ハンダごて、細目のハンダ、ハンダ吸い取り線、ハンダごて台を購入。全て合わせて2,500円くらい。

工具一式


分解に使う星型レンチも同時に購入。HDDのネジのサイズを確認していなかったので、何種類も入っているタイプに決定した。値段の割にしっかりとした作りだった。

星形ネジ用レンチ


一番重要なHDDは、壊れたものと同じモデルをAmazonで見つけたので購入。古いモデルなので、発見できたのはラッキーだった。中古で9,800円、送料無料。3TBのHDDが9,000円も出せば買える時代であることは、一旦忘れることにした。
 

届いた品を見てみると、確かに型式は同じなのだが、故障した方が中国製であるのに対して、新しい方はタイ製であり、よく見ると基板の形状も若干異なっている……。

左が購入したHDD 右が故障したHDD


若干嫌な予感がするが、ここまで来たら後には引けない。いざ分解である。



HIBANA

まずは故障した方を星型レンチ(T6サイズ)でパカッとな。

驚愕である。ここまでわかりやすい原因があるとは思わなかった。なんと電源端子に近いところの基板の一部が焦げているではないか。

素子が潰れるようにして焦げている


基盤と本体の間に挟まれていたスポンジも焦げている。こんな身近なところで知らぬ間に火花が出ていたとは考えただけで恐ろしい。


当該の素子に当たっていた部分が焦げている


しかしこれは朗報でもある。HDDが動かない原因が基板にあれば、今回の対応は有効ということになる。もちろんディスクも同時に壊れていなければ、だが。


小さきモノへ

いよいよ不揮発性メモリの交換に挑む。まずは素子が犇めく基板の上から、目的のブツを見つけ出さなくてはならない。片っ端から豆のような素子に書かれた文字列を検索すると、思いの外簡単に見つかった。

故障したHDDに付いていたのはSANYOの「LE25FU406B 4M-bit (512K×8) Serial Flash Memory」、新しい方に付いているのはWinbond社の「25X40ALS32 Serial Flash Memory With 4KB Sectors And Dual I/O SPI」。

不揮発性メモリ


いずれもMemory(メモリ)という名前だから間違いなさそうだ。故障した方も新しい方も、同じ位置にメモリが付いている。基板の形は若干異なるが、両者に基本的な設計には違いが無さそうだ。同じ型式のHDDなのだから当たり前か?

メーカーが違うが、2つのメモリは縦4.4mm×横5.2mmの長方形でサイズは同じだった。規格が定められているのだろうか?

だが想定外に小さい。小さすぎる。初めてのハンダ付けでこの素子を相手にするのは難しいかもしれない……。

1mmの太さもない脚が8本あり、それぞれが基板にハンダ付けされている。これを外すだけでも酷い苦労が予想される。この時は面倒くさくて投げ出したいという欲求しか感じなかった。

なにしろ、1.故障した基板からメモリを取り外し、2.新しい方の基板からも取り外し、3.新しい方の基板に故障した基板のメモリを取り付ける、という3作業が待っている。想像しただけで気が遠くなりそうだ。


理解力、記憶力、ハンダ力の低下

1mm間違えればアウトいう精密さを、初めてのハンダ付け作業で要求される人がいるだろうか。ハンダごてを持つ手は終始震え続けているし、目は痛いほど乾いていくし、熱くなったハンダごてから立ち上る臭いに頭が痛くなる。

ああ、ハンダの神よ。無謀に挑んだ愚かな私を許したまえ。来世は幼少期からハンダ付け作業に慣れ親しむ人生でありますように。母なるハンダよ、讃えよハンダを……。――頭の中を占めるのは素子の星々とハンダの海である。

結局、試行錯誤の末になんとか最初の端子を外すことに成功する。所要時間は約1時間。ちなみに8箇所の端子で設置されている素子を外すテクニックについては、下の動画が参考になった。なお動画では約30秒で外している。


右側を溶かしている間に左側が固まり、左側を溶かしている間に右側が固まり、総計20回くらい試して漸く成功した。何度もハンダごてを当てていたので、熱で基板や素子がダメになるのではないかと非常に不安だった。

作業の様子

外した素子を改めて見てみると、やはり小さい。よく外せたものだ。まだ何も解決していないが、既にものすごい達成感が私の胸を満たしていた。もうこのまま寝てしまいたい。いい夢が見れそうだ。

100円玉硬貨とのサイズ比較



Generals order their solders to...

2つ目の素子の取り外しは、最初の取り外し経験を踏まえてトライした結果、大幅な時間の短縮に成功する。所要時間約20分。急速な成長である。慌てなければどうということはない。

いよいよ最大にして最後の関門、基板への素子の取り付けである。これさえ終えれば作業は終了。まずは素子および基板に付いている余計なハンダを、ハンダ吸い取り線でクリーニングしておく。

取り付け作業は、取り外しとは比べ物にならないほど苦痛な作業だった。素子の脚と脚の間隔が1mmもなく、ハンダを盛りすぎれば即ショートである。結局これも数十回やりなおすことになる。

何しろ細かい作業で、左右上下のズレは許されないし、素子の配置が1°傾いただけでも台無しである。何度やってもズレる、傾く、はみ出す。素子とハンダが悪意を持って動いているようにしか思えない。

休憩を含め2時間ほど戦い、なんとか見た目には正しく設置されているような状態になった。なんだかハンダが汚いが、初めての作業としては上等だろう。尤も、HDDが動かなければ苦労は水の泡なのだが。

いよいよHDDに電源を入れ、PCと接続してみることにする。結果はともあれ、最善は尽くした。これで捨てたとしてもデータ達は私を恨むまい……。

※本来であれば、ハンダ付けのあとは「テスター」という機器で通電確認をする必要がある。筆者は調査不足でそんなチェックを知らなかったため、見た目だけで設置が上手くいったと判断しているが、外見は全く当てにならない。ハンダ付けに挑戦する際はテスターの購入もお忘れなく。


円盤のトレース

線と線をつなげてこ

メモリを入れ替えた基板をデータの入っているHDDに取り付け直し、いよいよ動作を検証する。Serial ATAとUSBの変換を用いて、PCに接続してみる。

USB変換を用いてPCに接続

変換からHDDに電源を入れてみると、なんと聞き覚えのある駆動音が聞こえるではないか!まずは完全な沈黙状態は解消されたことになる。興奮冷めやらぬままUSBケーブルをPCに挿し込む。

緊張の一瞬……果たして……!

認識されている

……ある!あるぞ!!認識されてる!!!うおおおおおおおおお!!!!!


思わず雄叫びを上げてしまった(深夜3時)。


中のデータも残っているようだが、ちゃんとアクセスできるだろうか……!?

データも無事そうである

残っている!!!イヤッフーーーーーーーーーー!!!!!!!


確認後、即刻データを全て別のHDDに移し替えた。またアクセスできなくなっては耐えられない。

ともあれ、初めての修理であるばかりか初めてのハンダ付けだったが、運良く大成功である。データが救い出せたこともさることながら、作業が成功したことが嬉しかった。


バックアップだ!

今回は運良く直すことができたが、こんな幸運はそうあるものではない。HDDは壊れるもので、また、直すことのできないものであるという前提を忘れてはならない。

その前提に基づいて、重要なデータは正しくバックアップを行うべきである。片方の機器が壊れても、もう片方にデータが残っている状態を保たなければ、後悔した時には遅いということになる。

何だかんだで作業を楽しんでしまったが、もう一度やりたいかと言われれば答えは全力でNOである。あんな苦しい時間は絶対に味わいたくない。身に沁みてバックアップの重要性を再確認させられた出来事であった。

手持ちの機器だけでのバックアップには限界があるので、データをオンライン上に保管しておくクラウド・ストレージについても利用を検討し始めた。後悔しないうちに利用を開始したいものだ。


くれぐれも大切なデータのバックアップはお忘れなく!

(完)

2015年6月21日日曜日

動作停止したHDDからデータを救え ~素人によるHDD修理~ 前編

ハードブレイク・ホテル

僕の記憶が全て消えても

誰もがPCやスマートフォンを使い、意識することなく大量のデータを保持している。この文章を見ている機器にも沢山のデータが存在していよう。

しかし、壊れない機械など存在しないし、電子データはちょっとした誤操作やエラーでも損なわれる可能性があることを忘れてはならない。デバイスを持っている全ての人が、大切なデータが消失する危険と隣り合わせなのだ。

ところで、女の子の「連絡先データが消えたから連絡できなかった」は大抵の場合ウソらしいので、言われた場合はデータ消失の原因を心配するより発言の理由を分析した方が良いかもしれない。

データ消失についての警告が世に溢れているにも関わらず、十分な防衛を行っている人は少ないのではないか。例えばスマートフォンのOSをアップデートした際にデータ消失を経験した人が、再発を防ぐために何らかの具体的な対策をとっているだろうか。

ちなみに私は電子データのリスクもバックアップの重要性も理解しているし、大切なデータは二重にする等の対策も欠かさない。ハードウェアの故障は避けられないとしても、完全なデータ消失とは無縁である。
バックアップ:同じデータを2つ以上の別の機器やメディア上に保存しておくこと。



そう思っていた。


オブスタークルは突然に

先日、外付けドライブの資料を取り出そうと思ったところ、当該のドライブが全く表示されないではないか。おかしいと思ってPCやドライブの再起動、USBケーブルの抜き差しを繰り返してみたが、状況は変わらない。

I-O DATA社製 HDCR-U2.0EK

何回電源を入れなおしても、中のモーターが駆動している音がしない。回転すべき中のディスクが回転していないのだ。完全に沈黙である。これではコンピューターから認識されないのも納得だ。

どうやら故障してしまったようだ。5年以上使っているはずだから、そろそろ壊れるのも無理はない。メーカーの製品ページによると2011/6/29に生産終了となっている。大したものだ。

HDDは壊れてしまったものの、データはバックアップがあるから問題はない。そもそも外付けHDDはデータのバックアップ用に用意したのだから、元になったデータは別に残っているはずである。

しかし、いくら探しても必要なデータが見つからない。Windows標準の検索機能を駆使しつつ、総当りで探してみるが、あるはずのファイルが見つからない。冷や汗が止まらない。

結局、バックアップ用と言いながら、外付けHDDのみに保存していたファイルが、覚えている範囲だけでも相当数あることがわかった。5年前からの積み重ねだから、かなりの量になりそうだ。


認めなくてはならない。

どうやら私もデータ消失に対して具体的な対策をとっていない者の一人だったようだ。


悪用の教典

なんとかデータだけでも抽出できないものかとデータ復旧業者を検索してみると何社も見つかるのだが、どこでも料金は10万円程度かかり、成功するか否かは、やってみないとわからないという。

学生時代から約5年にわたって蓄積されたデータは惜しい。特に、学生時代の写真を失うことになってしまうのは痛い。

だが、どんな写真がどの程度の量で残っているかも覚えていない。更に確実に戻ってくるわけでもないものに10万円は高すぎる。

残念だが諦めて破棄するしかない。失うとなると惜しいだけで、実際には大したデータは残っていなかったかもしれない。そう思うことにしよう。さようならデータたち。


捨てるにあたって、もし個人情報が保存されていて、悪い人が拾ってデータを取り出したりしたら大変なことになるかもしれない。念のため、二度とデータを取り出すことができないよう破壊してから捨ててしまおうと考えた。

だがちょっと待ってほしい。


……データを取り出す?


データを取り出すことが出来なくて苦しんでいるのに、データを取り出されることを心配するとは何たる皮肉だろう。

そんな心配をするのなら、自分で「悪い人」のようにデータを取り出してしまえば良いではないか。逆に、そんな方法が存在しないのであれば心配する必要もないのである。


試合終了は諦めるか否かというより時間の問題

そもそもデータ復旧業者たちは、どうやって壊れたハードディスクからデータを取り出すのだろう。壊れたHDDからデータを取り出すための何らかの方法が存在しなければおかしい。何故その発想に最初に至らなかったのか。

業者達は、
1.一般人の持っていない道具を持っている。
2.一般人の持っていない技術を持っている。
のどちらかに該当するはずである。

道具は買えばいいし、技術は持っている友人を探して頼み込めばやってくれるかもしれない。いずれにせよ10万円も必要ないのであれば希望はある。

とりあえず「HDD 修理 方法」で検索してみると、情報は続々と出てくるし、どうやら道具も方法も大して難しいものではないことが分かってきた。どうせ一度は諦めたデータであるし、ダメ元で修理することに決めた。


思い出を直す男

復活の福音

HDDの修理法について解説しているWebページ「素人でもできるHDDの修理と復旧方法」によれば、HDDはディスク部分と基板部分から成り、基板部が故障しても、故障していない基板に交換してしまえば動く可能性があるという。(図1)

図1 基板の故障と交換

ただし、ただ基板を交換しただけでは「カンカン音が鳴って、PCからはHDDが認識されない」という。理由の説明を上記Webページから引用する。
本来HDDごとに工場で設定するヘッド位置の初期値が、回路基板を交換したため入れ替わってしまったためです。

ただしこの初期値は、回路基板上の不揮発性メモリー(NVRAM、フラッシュメモリーとも呼ばれます)に残っていますので、この不揮発性メモリーを新しい回路基板に移植してやれば、カンカン音も無くなり、ヘッドも自分の位置を正常に認識できるという訳です。
なるほど、わからん。

わからんが、とりあえずの理解は以下のとおり。

基板上にある不揮発性メモリに、ディスクに関する情報が記録されていて、その情報が一致することによってHDDは正しく作動する。(図2)

図2 ディスクと不揮発性メモリの関係


基板を他のHDDのものと交換した場合、不揮発性メモリの情報がディスクの情報と一致しなくなるため、正しく動作しない。(図3)

図3 基板を交換した際のメモリとディスクの情報齟齬


基板を交換した上で、元の基板から不揮発性メモリを移植すれば、ディスクは正しく動作する可能性がある。(図4)

図4 不揮発性メモリ移植による齟齬の解消


不揮発性メモリの交換にはハンダ付けの技術が必要らしく、それが最大の難所とも言える。何しろ私はハンダ付けの経験がない。

だが調べてみると、誰にでも覚えられる技術らしいし、手先はそれなりに器用な方なので、なんとかなるはずだ。試してみる価値はある。


(後篇に続く)