2014年9月6日土曜日

有名企業の課題図書 ~あの会社の社員は何を読まされているのか~ 中編

丸善日本橋店の試み

有名企業の課題図書

この記事は丸善日本橋店で行われた『有名企業の課題図書』と称したフェアで紹介されていた書籍を紹介する記事の2つ目である。

まず初めに前編を読むことをおすすめする。前編はこちら

紹介された業種

扱われていた業種は以下の通りである。
  1. 製造業
  2. サービス業界
  3. 電機業界
  4. 情報通信業界
  5. 金融業界
  6. 不動産業界
  7. 食品業界
  8. 小売業
  9. 流通業界
  10. 商社
  11. 製薬業界
  12. 医療機器業界
  13. 教育機関
  14. コンサルティング
  15. 各種業界
「○○業」と「○○業界」とで表記が分かれていることに意味があるのかどうか不明だが、丸善で紹介されていた通りの名前に従うものとする。


中編(この記事)では5.金融業界から13.教育機関までを紹介する。


5.金融業界

金融業界の課題図書

金融マンのための実践ファイナンス講座

金融マンのための実践デリバティブ講座

金融マンのための不動産ファイナンス講座

銀行・証券・保険リテール営業で今すぐ使える税金の本


金融英語入門

あたりまえだけどなかなかできない仕事のルール

ミス激減・業績UP!チームを思い通りに動かせるダンドリ上司術

7つの危険な兆候


トヨタの片付け

2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート

日本一を目指す物流会社のすごい社員勉強会

ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則


感想

銀行か証券会社か、はたまた保険会社か判断しかねるが、実務的なタイトルが並んでいる。新入社員よりは少し経験があり、部下もいるような年次の社員向けの書籍であることを思わせる。

『7つの危険な兆候』は企業における大きな舵取りの失敗に対し、経営者と組織がどう向き合うべきかを提示している。戦略が上手く機能しなかった場合の対策にシビアな視点でフォーカスしている名著である。

前編の4.情報通信業界で『ビジョナリー・カンパニー』を紹介したが、続編である『ビジョナリー・カンパニー2』も同じ理由でおすすめできない。先に『なぜビジネス書は間違うのか』を読むべきである。


6.不動産業界

不動産業界の課題図書

チームで最高の結果を出すマネジャーの習慣

マネジメント・テキスト 経営戦略入門

営業マンは「お願い」するな!

「時間がない」から、なんでもできる!

電話はなぜつながるのか


感想

硬派な経営戦略の教科書とライトな自己啓発本の組み合わせで、いまいち対象が想像できない。『電話はなぜつながるのか』が課題図書であるというのは、不動産業では固定電話の仕組みについて知っておく必要があるということだろうか。


7.食品業界

食品業界の課題図書

洋菓子の経営学―「神戸スウィーツ」に学ぶ地場産業育成の戦略

ディープ・チェンジ 組織変革のための自己変革

誰でもアッという間に不思議なくらい商品が売れる販売員の法則

中内功のかばん持ち


感想

販売員に関する本や、中内功のことを取り上げていることを考えると、食品を製造するだけでなく流通まで自社で行っている会社だろうか。個人的にはあまり惹かれる本がなかった。

中内功とはダイエーの創業者で、日本の流通革命と価格破壊に大きく貢献した人物である。戦後から消費者に安く商品を届けることを信念にし続け、松下幸之助とは価格に対する考え方の違いで対立し続けたという。ダイエーの経営から引退する際の「人生に楽しいことは何もなかった」という言葉が有名である。


8.小売業

小売業の課題図書

戦略読書日記 〈本質を抉りだす思考のセンス〉

安売りしない会社はどこで努力しているのか?

社長のノート3 利益を出せる人 出せない人

「先延ばし」にしない技術

手紙を極める


感想

手紙の書き方であるとか、安売りしない姿勢であるとか、高級百貨店が読ませていそうなセレクトである。

『戦略読書日記』は前編の2.サービス業で紹介した『ストーリーとしての経営戦略』と同じ著者が書いている。
内容としては企業戦略本(一部直接関係ないものもある)への書評であり、紹介されている本は『ストーリーとしての経営戦略』と関連しているため、単独で読むよりは、併せて読むと理解が深まるかもしれない。


9.流通業界

流通業界の課題図書

無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい

コクヨ式 机まわりの「整え方」 社内で実践している「ひらめきを生む」3つのコツ


感想

いずれも流通業ではない会社に関する本である。

株式会社良品計画は2010年以降、利益率を伸ばしながら売上を34%増加させており、またコクヨ株式会社も同じ時期に利益率を劇的に改善しつつ売上を増加させている。

良品計画もコクヨも、現場の生産性改善に強くフォーカスする会社だと言われており、特に良品計画は現場の声を重視したマニュアルを売上増加の要因に挙げるほどである。

このような背景から、現場のオペレーションが重要な流通業の会社が、上の2冊に参考にすべき点があると考えるのは自然なことかもしれない。


10.商社

商社の課題図書

営業マンは「商品」を売るな!

ロジカル・プレゼンテーション


感想

営業にフォーカスした書籍だろうか。商社では担当する商品によって習得すべき知識がそれぞれ異なるはずであるから、共通化できる部分としてこの2冊が挙げられているのかもしれない。


11.製薬業界

製薬業界の課題図書

論理的な考え方が面白いほど身につく本

決算書の読み方が面白いほどわかる本


感想

一般的なハウツー本が2冊で、あまり読書による自主学習に期待していないことが伺える。


12.医療機器業界

医療機器業界の課題図書

給料が上がる人、上がらない人のたった一つの違い


感想

「こういう社員の給与は上げる、そうでなければ上げない」という姿勢を提示する極めてストレートな課題図書である。ブラックボックス化しがちな人事評価制度を、参考とは言え会社側が明らかにしているのは素晴らしいことではないか。


13.教育機関

教育機関の課題図書

「管理職」のための七つの道具術

ひと目でわかる英文契約書

グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略

プラットフォームビジネス最前線

オープン&クローズ戦略


感想

具体的な企業戦略の書籍が並び、経営や企画に関わる社員向けのセレクトであろうことがわかる。

『プラットフォームビジネス最前線』は、成功したプラットフォームビジネスを纏めて紹介しており、具体的事例から概要を掴みたい人にはおすすめできる。ただ、事例から一般化された理論や方法論の記述はあまりないため、既にプラットフォームビジネスについて詳しい人にとっては、あまり意味がないかもしれない。



(後編に続く)

2014年9月5日金曜日

有名企業の課題図書 ~あの会社の社員は何を読まされているのか~ 前編

丸善日本橋店の試み

有名企業の課題図書

丸善の日本橋店2階で、『有名企業の課題図書』と称したフェアが開催されていた。業種ごとに課題図書としている書籍が並べられているだけの展示だが、他社の社員教育の一端に触れることができ、非常に興味深い。

このフェアは丸善日本橋店で2014年8月31日まで開催されていた。

調査方法は明らかではないし、社名は伏せてあるばかりか、業種の設定区分も想像する他ないが、何らかの実際の会社(丸善曰く「有名企業」)の課題図書であったことは事実だろう。

思わず書名をメモしてしまったので、公開したいと思う。興味を持った方は是非、(フェアは終わっているが)丸善日本橋店へ足を運んでみてほしい。

なお、書籍の数が多いため、3分割して投稿する予定である。

紹介された業種

扱われていた業種は以下の通りである。
  1. 製造業
  2. サービス業界
  3. 電機業界
  4. 情報通信業界
  5. 金融業界
  6. 不動産業界
  7. 食品業界
  8. 小売業
  9. 流通業界
  10. 商社
  11. 製薬業界
  12. 医療機器業界
  13. 教育機関
  14. コンサルティング
  15. 各種業界
「○○業」と「○○業界」とで表記が分かれていることに意味があるのかどうか不明だが、丸善で紹介されていた通りの名前に従うものとする。


前編(この記事)では1.製造業から4.情報通信業界までを紹介する。


1.製造業

製造業の課題図書

見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み

現場力を鍛える-「強い現場」をつくる7つの条件



2052 今後40年のグローバル予測

ディズニーの現場力

勝つ組織




最新版〈入門の入門〉経営のしくみ

成功と失敗の事例に学ぶ 戦略ケースの教科書

知識創造企業



誰でもすぐにできる 売上が上がるキャッチコピーの作り方

プロフェッショナル電話力 話し方・聞き方講座

凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク



感想

製造業と書くだけでは領域が広すぎる気がするが、「電機業界」「食品業界」が区別されているため、対象は素材や部品メーカーやプラントメーカーなどだろうか?

『見える化』は世に出てから10年が経とうというしているにも関わらず、未だにビジネスマン必携の書として名が挙がり続ける遠藤功の傑作である。
「見える化」という語は今や自然に使われる語になり、この書のことを意識せずに使われることも多くなってきた。この書の影響力が伺える。
課題図書に設定されるまでもなく、上司や先輩などに薦められて手にする人も多い本ではないか。『現場力を鍛える』『ねばちっこい経営』と併せて読むことをおすすめする。

課題図書の調査対象が何社あったのかは分からないが、いずれも新入社員向けの課題図書なのではないかと思われる。だが、それが正しいとすると、製造業の会社が新入社員に対して経営そのものに関する書籍を3冊も読ませるというのは少し意外である。
今やどんな会社でも社員に経営的視点を要求しているということだろうか。コンサルティング会社には様々な企業から「社内の選抜メンバー向けのマネジメントや戦略に関する講座」の依頼が舞い込んでくるが、この課題図書もそうした活動の一貫だということか。

『戦略ケースの教科書』は、新人コンサルタントの中でよく話題に上がる書籍である。所謂フレームワークに強引に結びつけている感は否めないが、戦略の変遷や数字の変化などを細かく調べてあり、課題と効果に対する目の付け所を教えてくれる。


2.サービス業

サービス業の課題図書

究極のセールスレター

究極のマーケティングプラン

ある広告人の告白

「売る」広告



アメーバ経営

ストーリーとしての競争戦略

イノベーションの本質

ロジカル・セリング



NLPのことがよくわかり使える本

さあ、才能に目覚めよう

目標を「達成する人」と「達成しない人」の習慣

新幹線 お掃除の天使たち



感想

これもまた「サービス業」では領域が広すぎて全く会社の想像が付かない。

広告関連の書籍が目立ち、またセールス系の書籍が複数あったり、カウンセリングに使われるNLP(神経言語プログラミング)の書籍もあったり、営業色の強いセレクトであることは疑いがない。

この中で読んだことがあるのは『ストーリーとしての競争戦略』のみだった。競合他社との戦い方に興味はあるが、戦略というものが何なのか全く分からないという人に薦められる、比較的ライトな読み物系の戦略本である。


3.電機業界

電機業界の課題図書

役員の法律知識がよくわかる!取締役になったら「初めに」読む本

中期経営計画の立て方・使い方

プロジェクトコスト見積もり入門



感想

見るからに管理職や役員になった人向けのセレクトである。残念ながら私は取締役ではないし、プロジェクトコストの見積もりは手伝ったことがある程度、中経の設定など関わったこともなく、何より上のいずれも読んでいないのでコメントは差し控える。


4.情報通信業界

情報通信業界の課題図書

PDCAが面白いほどできる本

一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」

残業ゼロ!仕事が3倍速くなるダンドリ仕事術

絶妙な「報・連・相」の技術



自分の小さな「箱」から脱出する方法

僕が電通を辞める日に絶対伝えたかった79の仕事の話

月曜日の朝からやる気になる働き方

社員を大切にする会社 ―― 5万人と歩んだ企業変革のストーリー



給与計算の事務がしっかりできる本

「情報管理」に強くなる法務戦略

電力と震災 東北「復興」電力物語

ビジョナリー・カンパニー



感想

仕事術、仕事との向き合い方などの本が並び、また比較的ライトなものが多いことから、新入社員向けのセレクトであることが伺える。

『電力と震災 東北「復興」電力物語』が若干浮いているように見えるが、通信業界といえばSoftBankやKDDIが電力市場に参入しているので、自社の新規事業に目を向けさせるための選択ではないかと推測される。

『ビジョナリー・カンパニー』は、おすすめできない。取り扱う内容が意図的に限定されている上、楽観的すぎる。もし気になるのであれば、まず『なぜビジネス書は間違うのか』を読むことを強く薦めたい。



(中編に続く)